微睡みの後
御飯できた代

 冷めたコーヒーは苦い水であるからして不味いのは当たり前のことである。かといって大雨で増水したドブ川の匂いがするとなったら話は別だ。好奇心から、私は中に人差し指を沈めてぐるりとかき混ぜてみた。するとそこには硬い鱗の肌触りがある。ツツと滑らしてみると、薄衣の如き尾ひれが揺蕩っているではないか。じっと目を凝らしてみるとそこには銀色の鮒が泳いでいる。
 「これは本当にドブ川になってしまったようだ」

 そう驚いていると鮒は瞬きをして、カップの底に消えていった。呆気に取られ刹那、正気を取り戻した。すぐさまカップを手に台所に足を運び、シンクの前に立った。黒い水を見やって、少しためらいつつもステンレスの窪みに一筋打ち付けていく。しかし、銀色の魚は最後まで現れずついにカップの中身は全てなくなってしまった。

 はて、と底を見つめると底に藻のようなものがびっしりとついていた。私はその場で嘔吐した。


散文(批評随筆小説等) 微睡みの後 Copyright 御飯できた代 2012-10-18 03:08:22
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