今宵は4つの瞳のために祈ろう
夏美かをる
下校途中のスクールバスに
突如乗り込んできた男達
怯える少女達に男が
「どの子がマララ・ユスフザイか?」と訊いた
まだ愛くるしさの残るきれいな瞳を持つ少女が指差された
次の瞬間彼女の頭と肩に喰い込んだ銃弾
彼女の瞳が最後に捉えたのは、
自分に銃を向けた男の恐ろしく冷たい目の光かもしれない
医師になることを夢見て
女の子も学校で勉強をする権利を
勇敢に訴え続けてきた14歳の少女、マララを
タリバン戦闘員達が標的にした
彼らは
もしも彼女が生き延びても
再び襲うとの声明を発表している
同じ地球の反対側
“自由の国”と言われているこの国で生まれ育った私の娘は
今朝も「学校に行きたくない」と言って大粒の涙を流した
慰める言葉も底を尽き
私はただ 大きな瞳から次々に溢れ出る涙を見つめていた
その夜 娘にマララの写真を見せて、
彼女の身に起きたことを話した
「ふーん、可哀想だねぇ…」
娘はそう言ったきり 背中を向けた
そして
「もう、お母さんの話は聞きたくない」と
続けようとする私を遮った
所詮今の彼女が
私にも分かり得ない、パキスタンという国の過酷な現実を
受け止められる訳がなかった
“この地球上には 勉強したくても きちんと学校に行けない子が
マララ以外にも沢山いるんだよ”
なんて話を娘とじっくりしてみたいと思うが
それは娘がもうちょっと成長してからだ
明日の朝も娘は瞳に涙を一杯溜めながら学校に行くのだろうか?
あんなに学校に行きたがっていた
マララの瞳は 明日になってもきっとまだ重い瞼の下
輝きを失って沈んでいるだろう
どうか世界中の子供達が
瞳をキラキラさせて学校に通える日が来ますように…
革命家でも政治家でも宗教家でもない
ただの母親である私が
そんなお願いをするのは、とてもおこがましい
どうか
娘が瞳を濡らさずに学校に通えるようになる頃には
マララの瞳も 再び優しい光を捉え 輝き出しますように―
ただの母親として
そのことだけを
今宵はひたすら祈りながら 眠りにつこう