世にも優しい人
salco

寝息を立てる背中に心の中で呼びかける
世にも優しい人
ベニヤ板で塞がれた窓に蒼い月の光を描こう
今は夜中、外は涼しいはず
都会も眠り、時の歩みも止まったよう
月光と小さな鉢植が要る(習慣化の二人にはね)

恋人達には程良いベッドというものが無い
広ければ淋しいし、狭ければ苦しい
世にも優しい男
父でも兄でも英雄でもなく
けれど本当は恋しくもない
その手は私には退屈だ
言葉にさえ意味が無い
只ただ優しいだけの人

糠に釘、暖簾に腕押し柳に風
この分厚い背中
釘で刺してやりたい、イッパツ
頬をひっぱたき、金玉を蹴り上げ
尻にも蹴りを入れてやりたい
そしたら何か起こるだろう、間抜けな奴
初めて顔を歪め、私を憎むようになるだろう
呑気で何も考えない奴は嫌いだ
半分、お前を私は大嫌い
半分、私を私は大嫌い

でも一緒に寝るだろう
そこにベッドがある限り
私達はお互いにぬいぐるみで
人には時々ぬいぐるみが必要だからだ
決して踏み込む事も手に取る事もせず
世にも優しい人


自由詩 世にも優しい人 Copyright salco 2012-10-13 23:21:44
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