『へ の 人』
るるりら




困ったことに出くわした人のことを への人は
八時二十分の人と ひそかに呼んでいる
八時二十分の人と 十時十分の人とは とういう訳か
腐れ縁だ

なぜ 八時二十分の人と言うかというと 
八時二十分の時の時計の針の角度に ご注目あれ
あれが人の眉の形だとすると
八時二十分とは『ハ』の形であり そんなときの人は
たいがい なにかに困っているときだからだ 

八時二十分の人の周りには 大抵
十時十分の人が プンプンと怒っている
ほんとうは だれしもみんな泣きたい なにかを抱えているんだ

への人にとっても 悲しいことはあるのだけど
この悲しみがないことには
慶びがどんなものか
思い出せなくなるような気がして
へらへらしているだけなのだ

への人は
平気な顔をして
つい うっかり
辛いことなんて なにひとつないような顔をして
「へ?」
なんて つぶやいたりする。

それは
まるで
ぺ天使
その おみ足は
地面より五センチほど浮上している 
そして その頭は
出る杭のように いつもだれかに叩かれ続けている

どんなに叩かれても
すぐ傍にはいつも 八時二十分の人がいて
泣いてくれる
傍にはいつも 十時十分の人がいて
怒ってくれる

だから 
へ の 人 は
結局 最後には笑う
けれど、それは 毎回のことながら

奇跡だ


自由詩 『へ の 人』 Copyright るるりら 2012-10-13 21:29:48
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