待合室
霜天

よく風邪をひいた子供時代に


待合室はゆがんでいた
大通り沿いの小児科で
トラックが通るたび、がたがたと揺れた
松の並木の奥で待っていた
古ぼけた洋館のような建物は
いつだって静まりかえった別世界だった

扉があった、大きな
待合室の長椅子から振り返る
扉があった、大きな
一度も開かなかったその奥には
今でも、こことは別の世界が広がっている


空を飛ぼうか
扉の向こうは空で
開ければ羽が生える
長い廊下がぎしりと軋むたび
扉はがたりと身震いして
その先の世界を作り替えている


待合室はゆがんでいた
通りすがりの誰かが入ってくる
お礼を言って誰かが出て行く
夕日が色を運んできて
長く伸びた影が扉の向こうへ吸い込まれる
開いたところを見たことがない
その先には空があって
その先には海があって
僕はそこで自由です
飛んで
飛んで
どこからも、どこへでも
扉の向こうへ
扉の向こうは



待合室の大きな時計が
がちりと時間を告げると

さあ
大嫌いな注射が待っている


自由詩 待合室 Copyright 霜天 2004-12-16 01:54:32
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