【 砂丘 — 雑記帳 — 】
泡沫恋歌

鳥取砂丘を見ると
頭の中でハミングしてしまう曲がある
 
月の沙漠をはるばると
旅のらくだが行きました

異国の世界を唄った
この童謡が小さい時から好きだった

よく「月の砂漠」と書いてあるが
正しくは「月の沙漠」である
「沙」には「すなはま」の意味があり
詩は海岸の風景をモチーフに書いたらしい

それとリンクして
東郷青児の描く黒い瞳の美人画が
私の頭に浮かんでくる
なぜか青児の絵は砂のイメージがするのだ

安部公房「砂の女」は
砂丘の穴の底にある一軒屋に閉じ込められた男と
その家に住む寡婦との同居生活
蟻地獄のような愛憎ドラマか?
これは何度読んでも面白い!

余談だが
サン=テグジュペリの「星の王子さま」と
「砂の女」はどんな時も手放さなかった
私のお守りみたいな本である

     *

私が鳥取砂丘を訪れたのは
たぶん五年振りだったと思う
今日来て感じたことだが
あきらかに砂が減ってきている
砂丘の規模が小さくなったように見えた

「砂丘の砂を持って帰らないでください」

あちこちに書いてあるし
アナウンスでも流していた
……にも関わらず
スーパーの袋に砂を詰めている
中年のオヤジが居た
管理係員の男性に注意されると

「見なかったことにして!」

そう言って
袋に詰めた砂を持って
こそこそと逃げて行った

呆れて物も言えない
何んと 恥知らずなオヤジだ!
こういう人間がいるから自然が破壊される
たったひと袋の砂かも知れないが……
みんながやったらどうなると思う

砂丘の砂はさらさらと
粒子が細かくて きれいだ
園芸用に使うのかも知れないが
盗んだ砂で咲かせた花は
きっと憐れな花だ
それは地球の涙だから

最後は砂の美術館で
砂の彫刻「砂像」というのを見た
固めた砂を彫刻した像やレリーフなどで
どれも立派な作品ばかりだった

「ああ、砂って凄い!」

砂って芸術作品にもなるんだね


     *

鳥取砂丘
砂漠とは違う みずみずしい砂の広がり
海から吹いてくる風も心地よい
この砂丘で 私は今日
いろんなことを教えられた

小さな自分を脱皮できずに
もがき苦しんで 自信を失くした
もう駄目だと自分の才能を諦めかけた
私の存在なんて
しょせん砂丘のひと粒の砂に等しい

砂丘が私にヒントを与えてくれた

「自分の個性を信じること」

人より劣っていると分かっているなら
自分を好きになって もっと自分を褒めて
僅かな個性を伸ばすほか方法がない
ネガティブより ポジティブにいく
そうするより仕方ない

投げてはいけない
逃げてもいけない

創作者としての矜持を守るため
無心になって書くしかない
砂の上に写った自分の影を踏んで
一歩一歩 不確実な道を進もうとしている



自由詩 【 砂丘 — 雑記帳 — 】 Copyright 泡沫恋歌 2012-10-09 10:24:55
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