アンモナイトをおぶさって
ホロウ・シカエルボク





爪先が深く沈み

濡れた砂が潜り込む

薄曇りの空の下

静かに呼吸している海は

黒に擬態している

青のような色をしている

ひとの姿はなく

ひたすら尊い音がして

これはまるで

宇宙だ



波は身をこごめた

獣のように大人しい

ひとたび口を開ければ

その牙は果てしない

突堤に向かって歩いていた

そこに

何があるのかも分らずに

時折

わずかに見える月の下

その光が目印のように照らすところへ



冷えた重たい風

世紀の記憶がのしかかるよう

なまじ呆然とした今日の終焉に

首筋に巻きついたアンモナイトの触手

渦巻きは語れる

回転し続ける言葉みたいなもの

探しても

見つかることのない貝殻



突堤

コンクリートは

いらないものみたいに固い

砂を食わされた

スニーカーの底がぶつくさ言う

歩く

宇宙に設えられた

ひとが歩けるギリギリの通路を

歩く

突然

雲が途切れ

黄白色の月明りが

空へ続く橋をかける

おれはただ見ていた

ひとが歩けるギリギリの通路の終わりで



アンモナイトをおぶさって

足跡を逆に辿る

車のエンジンが聞こえる

驚くなよ

あれは



現代の生きものだよ





自由詩 アンモナイトをおぶさって Copyright ホロウ・シカエルボク 2012-10-08 21:36:10
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