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葉leaf

僕は詩を読みます まだ聴いたことのない音を聴き、まだ見たことのない光を見るために詩を読みます 時には波に乗るようにして、時には地面を掘るようにして詩を読みます 何物でもなく、何物でもあるような未明の形体と融合するために詩を読みます ある時は机上である時は駅の喧騒の中で詩を読みます

雨滴がどこまでも落ちていき疲れ果てて地上へと身を横たえる 地上の水たまりに映った金木犀は憂鬱を酸素に光合成して曇った空へと進出する 病が椿の木の毛根をめぐり相手を死なすか自分が死ぬか禅問答を続けている そして雨は霧のようにわずかな音を立てて大気を満腹にし 消化液として風景を溶かす

小さな羽虫が群れを成して、そこここの空間に虫の柱を作る季節になった。私は自転車で道を進みながら、その虫の柱に何度も衝突する。顔に小さい礫が当たる感触。Tシャツに貼りつく虫もいれば、ジャージの繊維の隙間に足を絡める虫もいる。唇の端に違和感を感じたので拭い去ると精巧な羽虫が蠢いていた

たった一つの沈殿した「さようなら」を たくさんの華々しい「ありがとう」で包んで そうして僕らはいつも無口な天秤のように 血の重さと肉の重さを釣り合わせている 喪失はいつも形のわからないもので 「ありがとう」でどう包んでよいのかわからなくて 本当は天秤も振り切れているのかもしれない

いつも細胞の中で飛び跳ねている歌たちが 遠くからかすかにほのかに聞こえてきた朝 僕は夏の体を食べつくして秋の体を着込む 夏と秋を決めるのは僕ではなく 例えば一匹の羽のちぎれた蛾である 死んでいく者たちが存在を遺していくということ 季節はいつもそのようにして今日も僕の歌を書き換える

言葉というものは積木細工です 単語が一つ一つの積み木で 名づけは僕らの知らないうちに傲慢に冷淡になされています 僕は積木の組み合わせに飽きて 自分で積み木を作ろうと こんな夕方を「ひろり」と名付けてみました ひろりは無垢で文脈や同意によって鍛えられてなくて でも壊すには可愛すぎて

廃屋の屋根をひょいと跳び越えて バイクの通り過ぎる慌ただしい音が 僕の鼓膜をひょいと跳び越してきた それは音楽の一つの素子 みるみるうちに増殖し 僕の目の前に交響曲の幻想を描き去っていった さらにひょいと来るのは永遠に続く虫の声 幾つもの音階に分かれて 協奏曲の綱を絞り出した


自由詩 twitter Copyright 葉leaf 2012-10-08 14:09:41
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