白い砂漠に
草野大悟

白い砂漠に
矢のような日光が降り注ぐとき
摂氏五十度の風に
駱駝が弱音を吐く。

そのころ
私たちの小さな家の二階では
左腕がV字に固まった女が
つば広の白い帽子を右手で押さえ
吹き荒れる海を見つめながら
あの頃を想っている。

気の遠くなるほどの痛みを重ね
気の遠くなるほどの想いを重ねても
レオタードのあの頃は二度と戻らないと知らされた夏
女は、話すことも食べることも立つことも笑うことさえ捨て
海の中へと溶けていったけれど
私は、どうしても女が溶けてしまったということが信じられずに
毎日 女のオムツを捨て
あの熱い風をさかのぼるのだ。

白い砂漠に夕暮れが訪れる頃
私たちは最果ての食事をする
食事中に突然
フェネックキツネが現れ
「砂漠主義」を主張して
私たちのこれからを語ってみせる。

夕暮れが笑う空では
女がいつも被っていた白い帽子が
虹色の潮を吹きながら
雲と遊んでいる。

屋根のないテントで
星空を仰ぎながら眠る砂漠には
人を幸せにする魔法がある
、のかもしれない。


自由詩 白い砂漠に Copyright 草野大悟 2012-10-08 09:29:12
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