独月
阿ト理恵

わたしだったらこうするを楯に突き進んだ青い時代がありました。あなたのそうするを理解できる想像力に欠けていたのです。お互いの価値観の違いを別れる理由にしてしまう浅はかさ。沈黙は心臓10センチメンタル否センチメートル下に刺さったけど、血が滲む程度のものでした。マキロンで消毒してカットバンを貼っておいたら、すぐ治りました。

アッコちゃんのコンパクトもないのにテクマクマヤコンテクマククマクマって間違えたりしたから理想の女になれなかったよ。

お互いね、ことば信じてさ、話しすることで、あなたのそう思うとわたしのこう思うのエゴを認めて、もちろんエコは含み、違うということから生まれる愛をさ、大事に育てていたつもりでした。
好きだという自由と嫌いだという自由が平等であるためにもね。

って希望は
遥かかなたに吹き飛んでいったわけで。

なにかしなければと思っても、なにもできずにいる。
タレ流しのテレビをなんとなく見て、なんとなく考えて。なんかするという機能がぶっこわれちまったみたい。冷蔵庫開けても見つからない。

テレビのチャンネルも電話のダイヤルも時計の針も回すものだと思っていたアナログなわたしは、ソフトやマックやアップルが食べ物じゃないんだとわかって、ゆうちゅうぶを携帯からぶらぶらしたら猫動画ばかりみていて。美しいリアルな星空をみるために山へ登ることもせず。
弓のような月が金星に矢を射る孤独な月の想いは、その距離を縮めることができないように届かない。想像のなかだけで結ばれる世界が創られるということは、星はただの光る点に過ぎず、豆電球に見えることにさえなる。

目で見える範囲の数字を遥かに越えた理解しようとも果てしない広さ深さの闇に比べたら、わたしとあなたの冷たい溝なんか胡麻粒ほどのことなのかしら。

つじつま合わせに渡した橋は、こらえて応えて 凪を待つ。

橋は大事なの? 答えてほしい、あなたに。

わたしの気持ちに素直で忠実であろうとすればするほど、ハッスルことばと行動は一貫性がなくなり、わたしはわたしを見失う。細胞の叫びが聴こえるほど、静かな場所で、自分以外に信じるものもなく誰も助けてなんかくれない時、わたしは、自分の細い指で、心臓の奥に蔵ってある手動式時計のねじを巻く。
あなたはなぞだらけネットさま。




散文(批評随筆小説等) 独月 Copyright 阿ト理恵 2012-10-05 00:27:22
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