庶民の一夏
salco

連日32℃を超える暑さを
新聞、テレビは猛暑日連続○○日と騒ぎ立て
それでも夕方からいい風が吹く夏だった
こんな風に、冷房ナシの夜はいいなあ
砂浜で波を眺めているみたいで体が安らぐ
空の深さを感じて心も清々しい

冬の間は凛々しい夏の姿に憧れて
カレンダーを先めくりしていたが
今や無慮な太陽にうんざりして
辛気くさい10月を待ったりしている
何故なら精神的にも若さがなければ
夏とは対等に渉り合えない

道理で機械文明の発祥は北方だ
暑くて何をする気も起きない熱帯では
木蔭の昼寝で日中をやり過ごす
その上方
寒さにも暑さにも耐えられない
勤勉な無毛猿が莫大なエネルギーを食って生きる

先進諸国の既得権益
原油スープに煤煙の二酸化炭素がけ
ウランの臨界スフレ

そしてエレガントなパルプで尻を拭き
レバーを上げて膨大な糞尿を目の前から消去する
下水という機構の発明こそは
人間の指向性の最たる表現ではなかろうか
上方に聖域をこしらえて麗しい夢を見
下方の暗渠に汚物を垂れ流して無化する
故にこそ、眺め渡す我が地平の安寧な事!

そして火星にはNASAの探査機オデッセイ
水星にはメッセンジャーを周回軌道に置く
知りたがり生物
地球のデッドツインは氷点下180℃
太陽の生贄じみた小惑星の表面温度は
摂氏450℃を超す不毛ぶりであるらしい
Curiosity kills what?

アメリカ合衆国という前代未聞の金満家
グローバル・メディチの惜しみない
或いは地球の孤独を焙り出すだけの先行投資のお蔭で
今や私の如き一無能庶民さえ
木星の大気や土星の輪の成分を(電気映像箱から)聞きかじり
レオナルド・ダ・ヴィンチより碩学になれる時代

衛星電波を受信する地球人にはまだしも
海からの風が吹く
人類起源の遥か40億年昔から
相変わらず水蒸気は雲となり、大量の雨を降らせている
我等が便所と化した惑星の温暖化に杞憂を唱えるよりも
せめて南極大陸の溶解で溺死できるだけ幸甚と思うべきだ


自由詩 庶民の一夏 Copyright salco 2012-10-03 23:57:16
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