女になるということ
salco

固く胸がふくらみ始め
女の子はあごの下で
つぼみが育っているのを知る
 不思議なわたし。
自分の体につぶやいてみる
身体の深奥から
まるで一本の茎が通っているみたいな内部から
外へ外へと押し上げて来るように
胸はふくらんで来た

おっぱいの中心にぐりぐりが出来た時
紙粘土でも詰められたような痛みを感じる時
幼稚園の頃から見慣れた蕾乳の凹みがいつの間にか
飛び出ているのに気づいた時
金色の産毛がうっすらと、むき出しの恥丘を隠すように
生えて来たのを見出した時
急にそこを秘密めかしたエロティックなものにする、
成長の意図を感じて憂うつになる
体の奥からつるつるした体表に出て来ようとする、
得体の知れない成長の証に不満を言ってみる
 変なわたし。

大きさ以外は赤ん坊の頃から保持されて来た、
体が突然変化し始めたことに
驚きと不安を感じる
女への準備と言われても
女がどういうものかも判らず
あずかり知らぬ所でスイッチが入り
体が勝手に女になって行く
意思によらず体が勝手に始動して
大人の生々しさへ膨らみ始める
その不気味さに戸惑いもする

そしてある日、
脱いだテニス・スコートが
鮮血にぬらぬらと染まっているのを見た
跳ね回った一日が終わり、
誰もいない夕暮れ時の部屋で
まるで鬼ごっこの鬼に触れられたように
次々と同級生がなって行く、
話に聞いた「あれ」が
とうとう自分に起こったのを見た

その日の為に準備していた歓喜は覚えず
安堵もなく、かと言って慄きもない
ただ、ぬらぬらと血液が光る、
ポリエステルのスコートに嫌気がさした
自分の体から痛みもなく血が流れる、
その無惨に嫌気がさした
急に疲れを感じた
すると初めて、お腹の奥深い所に
「在りか」を知らせる重みを感じた
 不思議な身体。

そのようにして女になり
体は一年で変わってしまった
すっかり重たくなってしまった
ハードルや競走に腿を上げるさえ億劫なほど

今や私のおっぱいは
水を詰めたビニール袋のように柔らかい
いまだ体は齢ごとの変化を辿る
女であるって、そういう寂しさだ


自由詩 女になるということ Copyright salco 2012-09-28 00:12:48
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