遭遇戦
多木元 K次


ベランダから部屋へもどってくると
なんか照明がばたばた言っている
ぎょっとして上をみると
一匹のトンボが照明に羽をぶつけてばたばたやっているのだ

ぼくはほっとした
ああ トンボね きみでよかったよほんとに
あいつとかあいつとかだったら本当にどうしようかと

しかし 一緒に一夜を明かすわけにもいかず
彼にはお引き取り願わなければならない

我が家には虫取り網なんていう気の利いたものはなかったので
ほうきとちりとりをもってきた
トンボさんごめんね うちにはこれしかないの

件の照明はいわゆるシーリングライトというやつで
ぼくが得物をもってくるあいだにトンボは天井とライトのすきまに挟まっている

やめよう ね トンボさん そこはやめよう
マジで ほんとマジでどうしようもないから

何回か試してみたけれど やっぱりどうしようもないので
結局照明を落として 隣の部屋の照明をつけた
幸いドアにはガラスがはめ込んであるのでドアも閉めてしまおう
本当は飛ばれるのは嫌なんだけど まあ仕方ない

じっと待っていると 果たしてトンボは明かりのあるドアのほうへ飛んで行った
すかさずかけより 得物で彼を捕獲する
ばたばたやってたけど わりとすぐおさまった
しかしここで痛恨のミス
窓の鍵が閉めっぱなしです

ほうきの先で挟んでたけれど
鍵を開けているうちにトンボが上に上ってる

ここで飛ばれたらいままでの苦労が水の泡なんだけど

ひやひやしながら そーっと そーっと
ほうきをベランダの窓のほうへ持っていく
飛ぶな 飛ぶな 飛ぶなよお 飛ぶな

幸い彼はおとなしく運ばれていき
ぼくはほうきをそのまま外に置いて窓を閉める

ふいー 一件落着

虫が光に集まるという習性は知っておいて損はないなと思いながら
ぼくはふりむいた
部屋にはまだ 彼の気配が残っているような そんな気がする


自由詩 遭遇戦 Copyright 多木元 K次 2012-09-27 01:39:58
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