‘義務’という言葉をまだ知らない娘へ
夏美かをる
9月からアメリカの小学校に入学した娘
2日目の朝吐き、早くも欠席
3日目お腹が痛いと昼前に早退
4日目から毎朝目が覚めると学校に行きたくないと、泣くようになった
「なんで行きたくないの?」
「つまらないから」
「つまらないことないでしょ。勉強して色々なこと分かるようになるって楽しいでしょ。」
「そんなの楽しくない。勉強ならママと家でしたい」
「お友達にも会えるでしょ。休み時間に一緒に遊ぶの 楽しいでしょ」
「友達は学校行かなくても会える」
「学校行かない子なんていないんだよ。みんな行くんだよ」
「ヤダ!お腹痛いもん。本当に痛いもん。」
「本当にお腹痛いのだったら、今すぐ病院行ってすごく痛い検査だよ」
「ヤダ!ヤダ!ヤダ!どうして学校に行かなきゃいけないの?」
涙を一杯溜めて訴える娘に、これ以上何て言えばいいのだろう?
学校に行かなきゃいけない理由が、どうしてもうまく説明できない
「とにかく学校は行かなきゃいけないの!つべこべ言わないの!」
しまいに怒鳴ってしまう私は、
理屈を力でねじ込むだけの 嫌な大人になってしまった
母親になる資格など元々なかったのかもしれない
買った時にはあんなに喜んでいた 明るいピンクのバックパックが
バスに乗り込む小さな背中を鷲掴みにして覆っている
うつむく頭に手を振りながら
“頑張れ!頑張れ!”と呟く
“その重さに負けるな!
あなたがしょえない荷など一生誰も与えやしないのだから!”
引っ込み思案で強情な娘
私に似たんだね
怒鳴ったりしてごめんね
だけど、あなたは学校に行かなければならない
何故なら 小学校はアメリカでも義務教育なのだから
学校に行くことも 行かせることも社会が決めた義務(obligation)なんだよ
そしてこれからも人として生きていく限り
あなたは様々な義務を果たしていかなければならない
動物じゃなくて人間として生きていくことの証はここにあるんだよ
そう言ってもまだ理屈っぽいけどね、
とにかくそういうことなんだよ
(やっぱりうまく説明できない)
‘義務’という言葉は、何年生になったら学ぶのだろう?
あなたはもうその頃には‘何故?’と考えなくなっているかな?
学校が大好きになっているかな?
そして―
あなたが流した大粒の涙も よろよろ進んでいったピンクの大きなバックパックも
頬笑みと共に蘇る記憶に変わっているかな?
頑張れ、頑張れ、私の娘!
あなたが‘義務’という言葉の意味を知った上で
それでも尚学校に行きたくないと言うのなら
その時はじっくり話を聞いてあげるよ
だけど、今はまだ登校拒否は早すぎる
あなたは学校生活をまだこれっぽっちも体験していないのだから
“つまらない”と決めつけてはいけないよ
強くなれ、強くなれ、私の娘!
今日早退しないで帰ってこれたら
いっぱい いっぱい ハグしてあげるからね