例えば茸
一尾

例えば春先に洗濯物を干しているときに不意に吸い込んだ胞子とかが夏の間に私の内々で静かに菌糸を伸ばしてやがて皮膚を突き破るようにして現れたらいいのに茸とか
まああの子だからねと固有名詞が理由になるほどの魂の質量を持ち生まれているとはとても思えないが
人がみなそう言うのだから幾らかの需要は受け入れるし存外そういう立場でいることはすべてを諦められているようで楽でありただその分何かしらの期待感のようなものを背負うことには若干の辟易を覚える
例えば体が緑色だったらよかったんですよと在日少年を描いた小説の中で彼は言っていたが
異端が或いは表出する形を自分で選べるとするのなら皆は何を選ぶのだろう


例えば春先に洗濯物を干しているときに不意に吸い込んだ胞子とかが夏の間に私の内々で静かに菌糸を伸ばしてやがて皮膚を突き破るようにして現れたらいいのに茸とか


自由詩 例えば茸 Copyright 一尾 2012-09-16 14:13:34
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