すべて死すべきもの
オイタル

電車は遅れてやってくるだろう
通勤客も 学生も
深く蔭を巻く階段の一足ずつを
うつむいて上っていくだろう

すべて死すべきもの
と歌われた地上で
今日もなお月は
広がる木々の枝々に黄色い糸を降らす
私は予言めいたジョッキに
冷え切らないビールを満たして
束の間ののど越しのウソに舌をなめずる

夕暮れの木々の翳りの向こうに
電車は繰り返し遅れて
警笛を高く鳴らし
けれども人々は その足を速めることはなく

明日には何事か
落ち着くはずだ 町ごとに
そう思い馴らして
一万枚の枕木を踏み渡ってきたわけだが
私のジョッキはそのたった一枚に
雨のような模様を残して消えゆくのみだ
ために液体を 密やかに垂らしつつ

今日も
電車は遅れてやってくるだろう
私の訳知らぬ怯えを
レールのかなたまで繰り返し打ち鳴らしながら


自由詩 すべて死すべきもの Copyright オイタル 2012-08-26 21:43:10
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