深紅の風
マーブル





あの深紅の風には
乗れませんでしょうか?
わたくしは夕空に
問いかけるところでした
時間がたなびくのを
この目が確かに
みとどけていたのでした


ピアノの白い鍵盤の上を
光のくちづけが降りかかり
そっと音もしなく
置いてゆくあの
しなやかな手触りは
今か今かとばらいろの
太陽が沈みゆく光景に
色褪せもしない小指ほどの面影が透明な糸を
絡ませながら
こころの奥で結ばれて
わたくしはやっとのこと
風景が硝子に寄り添うのを
見つけられたところでした


俄か雨がまだ些か名残惜しそうにアスファルトに降りかかる頃でした
反射された色とりどりの
水の虹が緑の葉にぴたりと
落下して
その雫ひとつひとつには
まあるい夢物語が映っては
きらきらと息をしているようでした



人々は自然に黙り
その様子にみとれ
言葉を発する前に
涙を流すようでした



涙も景色も呼吸をするのでした
いつかわたくしたちは
草原の少年少女でした



何処までも茂る草原に
寝ころがり流れては
ちぎれ手を振って旅に出る雲たちを見上げたり
そうです
草原の先には海が見えました
何もかもが透きとおり
みずみずしい瞳を自由に
はためかせておりました



パパが亡くなった時
わあんわあんと泣いた
あの日さえも
瞳はいつでも
海色をしていたのでした
潮風を浴びると
パパがいつか云っていた
涙の産まれたところを
思い出すのです



わたくしたちは
一日一日少しずつ年をとってゆきます
何故?と聞いてみても
みな口々に運命という
言葉を揃えます



今見上げている森の木も
星ぼしも地球も
年をとるのでした
命を授かった者たちは
みな年をとるのだと
わたくしはいつ覚えたか
忘れてしまいましたが



今を見上げている
わたくしの目の前は
季節と年月が残していった
風景それこそが
わたくしをいっそう
海色にさせてくれます



あの深紅の風には
まだあどけない声がしてきます

あたたかい土の温もりと
匂いを纏って
今日もつよくやさしく
空を駆け巡るのでした


携帯写真+詩 深紅の風 Copyright マーブル 2012-08-25 04:22:01
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