音なしブギーナイト


  メーター単位分断系列の根性焼き配置
  恒星が腕の節々でひかる
  目玉を抜かれた十字架
  スカートの皺がちらちら
  いつも心には心なんて置いてない


 ブルーベリー色の爪で火星人のふりをして探査機に乗り込むにはあと三枚足りない。免罪符、「課外授業」とでも言えば宇宙の果てだって行っていいはず。それはものもらいのように、天然痘のように、コレラのように、浮ついて醒めてしまう。受容、という語がひっきりなしに胎内を這いずり回る。もし生むなら緑の肌をしてほしい。知らない。そうは言っても鏡はぶくぶく太っている。欲望の数だけバストサイズが上がった夜はエクレアが恨みがましいと彼女が言っていたのを思い出したぼくは歩き始めた。月の長い海が死体のように横たわっている。突き刺さったポインセチアがふらふら嵐でのたうつのが見て取れる。鉄風がギュインギュイン螺子巻きのかみそりみたく音を立てて肉体を揺らがせる。月の地面は、砂浜で、冷たいのが通り越して熱くなる。ぼくは遠くに向かって歩いている。大きく股を開いた太陽の息遣いが聞こえなくなるように、歴史を忘れるように歩いている。たばこの火は花火みたいにしばしば驚かせた。投げ捨てていくとそれがどんどん伸びていって地球に向かっていく。おれはそうすると気が大きくなった。埋立地の建築が沈んでいく気分がした。酒を飲んでも、凍っているから噛み砕くと燃えている。本がどんどん頭から零れ落ちていく。ヘンゼルとグレーテル、痕跡を月に示しているようだけれど、少し迫ってきた陽光に簡単に焦がされる。インクの亡霊たちがミノフスキー粒子になって呪いをかけている。まじないごと、光は鬱屈しなければ直進する。月のニキビを探り当てるつもりだった。信号機が遠くで午前三時っぽい光を奏でる。暗闇と逆光の横断歩道だ。おれは虫眼鏡を取り出して、たばこに向けて、体が燃えるギリギリで火を付けて、歩き出した。宇宙の中の煙というのはどうにでも換えられるから、今朝読んだエロ漫画にしようと思ったらキリストになった、遠く、遠く、するとおれは歩き続けた。ずーっと、譫妄状態に似ている、体がひっきりなしに宇宙とセックスしたがって、それを大きなひとたちが押し留めている、ヨシュアが浴びた香油の源泉をたどろうとすると、あの子の顔が浮かんでくるから、それはもうやめたことにした、真っ暗闇の赤ん坊が生まれる前に、それはコーンポタージュの缶にでも詰め込むことにした、地球は遠くて、青くて、うざったいくらいに緑の色がきれいで、おれは探査機に詰め込まれたロボットじゃないのかって思っても、寒い、それにしても寒かった、「ううああああ」とか声を出したら、それで息が凍ってひとのかたちになった。落語の一節を思い出して、それからまた歩き始めた。歌も凍ってしまう絶対零度で、魂を呼べばそれが震えて声だと勘違いしちゃうくらいの静けさ、足音は響かないから、自分の脳みその血流だけが、ビートの便りだった。


自由詩 音なしブギーナイト Copyright  2012-08-23 21:24:04
notebook Home 戻る