彫刻室座のよる
梅昆布茶

まるでぱっとしない南のそらの彫刻室座
でもそれは深宇宙への小窓でもあるらしい

かつてない鮮明さの神の領域が
彫刻家の仄暗い室内に展開されてゆく

ひかりと闇の融合が
可視光の色調の変化をともなって
茫漠の詩篇をなす

宇宙の生成の泡が生命の螺旋となって
無機の岩片にしがみつき
やがては地衣となり羊歯と繁茂して
風をいろどる花となる

ナメクジウオは砂にもぐり浅瀬を泳ぎ
あたたかい海の中で雌雄の夢の断片をつむぎ始める
計り知れない遠い単細胞の眠りが
集合意識となって互いの認識を交換しはじめる

構造は構造を生み永久運動をはじめた進化の糸はほら

空を飛びあるいは直立して建物を作り
蔓延して規範を建て絆を破壊し
自らの加速に酔いしれて浮遊するくらげのように

いま仄暗い彫刻家の黴臭い部屋にひとすじの光が走る
しずかな情緒の薄闇の

彫刻室の安穏な空気のなかで
さらにどこかへ向かおうとしているのだろう

そうすべての夢は去らなければならない
すべての夢はいつかは

死ななければならない





自由詩 彫刻室座のよる Copyright 梅昆布茶 2012-08-21 21:16:52
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