うたをわすれたカラス
梅昆布茶

山へ帰りながらふといつものうたが
歌えないことに気づいた

村の畑で菜をついばんでは涼しい枝でやすみ
仲間たちとじょうだんを言い合ったり
洟垂れ小僧たちを少々おどかしてきをはらしたり

川の浅瀬で水浴びをして冷たい水でのどを潤すのさ
たまに人間の飾り玉を集めたりするけれど
気にしないでくれ趣味なんだ

でもからだの時計がボンと鳴って
家のぬくもりを思い出すとき
無性に夕日のいろをうたいたくなるのさ

俺たちのことを君らがなんとよんでいるかは知らない
生きてゆくには関係のないことだ

あるいはゆうがた飛び回るあのみみのとんがった奴らと
いっしょにしているのかもしれないが

わからなくなってしまったんだ
ちょっと考え事をしていたらうたをわすれちまった
あたりまえだと思っていた
いつもの冴えないでも俺たちだけのうたをね

人間が自然的態度とか呼んでいるらしいあたりまえな
自明なことができないみたいなんだ

疑わないことで俺たちは自由に空を飛び恋を追って
そして暖かい巣や仲間やめんどうな子育てさえも
うまくこなしてきたんだ

しまいには空の道や風向きやすてきな匂いまでわすれそうだ
やがて飛ぶことさえもうしなって
まさに路頭に迷うのかもしれないな

あのうたは俺たちの社会のうたなのか
それともおれの勝手なおもいこみだったのか

おれたちは君らのように石ころを交換はしないが
なにかを信じているらしい

それを忘れたときには
きっとまっさかさまに墜落するのかもしれないな

あの太陽に近づきすぎたきみたちの仲間の
イカルスとかいうやつのように

だから思い出さなきゃいけないんだ
いつものうたを
いつものようにね








自由詩 うたをわすれたカラス Copyright 梅昆布茶 2012-08-18 20:51:46
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