都営団地の屋上で
馬野ミキ

ハローワークに行ったふりをした帰りに
そうえいばキムからの着信があったなと
スリーエフの交差点で電話したら
おばさんが出て
ミキくん、ブログの作り方を教えてというので
一体あのババアが何をインターネットに発信したいのかと笑いをこらえながら
それでも家に帰る気もなく
用事もない俺は
小学校のグラウンドがある十字路を左折して
練馬は高い建物がないから
ラピュタが入っている規模の
どでかい入道雲をみながら
坂道をくだって
夏休みの宿題や
モンゴルの大平原について
思い出した















自転車置き場の雑草は元気がよかった












四階建ての都営住宅にはエレベーターがないので
俺は階段を駆け足であがった
このあたりの踊り場にはすべて思い出がある
どの消化器の裏にも
俺たちはびっしりと詩を描いた











立て付けの悪い
屋上への扉に
鍵はかかっていなかった
ダイヤル式の鍵を
キムが
区に変わって管理していた
















扉を開けると
そこはモンゴルか天空の城のようであった

















俺は青い空の引力に吸い込まれそうになりながら
報われている気がした
セミがセックスしたいセックスしたいセックスしたいと鳴いていて
どこかから甲子園の中継が聞こえたかと思うと
本日は終戦記念日であります。という低くやさしい日本人アナウンサーの声が聞こえて
この日本の
俺が行ったことのない知らない土地で
誰かが誰かに無言のまんま、花を添えたりした
このように4011のじじいは耳が悪いのでいつでもアクオスをフルボリュームでいる
けれど黙祷のときにはみんな静かになった
セミ以外。














キムは
汚いビーチパラソルの下で
週刊ジャンプを枕に寝たふりをしていた









日本男児が昼間から働かず
都営住宅の屋上の鍵を改造し、屋上に忍び込み眠っているというのは
よくないなと思った










俺は
両手を広げ
爆撃機の音真似をしながらキムに近づいた
キムは寝たふりをしながら地対空ミサイルの砲撃準備にとりかかった。







辺りに高い建物がないし、俺はキムにふるちんになるようにすすめた
キムは少し恥ずかしがったが
現代人はもう何十年もちんこを太陽に当ててないから何が本当にしたいことなのか忘れてしまってるんだと言って脱がせた
俺たちはサンオイルを塗り
ダンボールの上でしばらく寝転んだ
甲子園の中継があっちとこっちからステレオで聞こえる
遠くで誰かがお経を唱えている
太陽は白から銀色になりそうなくらい震えている
なんて圧倒的に存在しているんだろうか
俺はキムから奪ったサングラスで太陽を見つめた
太陽はどういう人生を送ってきたのだろうかと思った
それから目をつむった
セミたちによる求愛のオーケストラに身をおいて、寝た。






自由詩 都営団地の屋上で Copyright 馬野ミキ 2012-08-21 14:02:37
notebook Home 戻る