十年
やや

錆びたチェーン 剥げた塗装と 積もる塵 空気の抜けた タイヤ、十年


伸びた腕 煉瓦色の肌 高い声 母のうでから 抜け出る十年


深くなる シワも記憶も愛もみな 未来だけが 淡色、十年


*


さよならを 容易く言えるようになる 生き延び方だけ 長けた十年


手の甲で まぶたを拭う ことを止め 手のひらで押した、まぶた、十年


時が人を 型に通して 正してく 抜けられないまま 型の中十年


*



時間はね、ガラスケースに 保管した 白いドレスも 汚す、触れずに


お父さん、私段々 母に似る 深淵そばに 音が聞こえる


十年前 泣き嘆いてた 祖父の死の 深さを越えて 死について知る


*


十ヶ月 深く繋がって いた子とも 心は触れずと 信じてる君


子を撫でる 髪に触れて 頬押して そういう夢を 見た夢をみる


*


経験が あらゆるものを 慣らしてく 喜怒哀楽を 抜いた肖像


背骨から詰まった 骨髄体液と 同化した愛 過去、未来、いま。



短歌 十年 Copyright やや 2012-08-20 23:23:19
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