夜わたる夜
木立 悟





むらさきの家具
光の終わりの
粉と冬


星や海や
息の位置
誰が花でも
花を咲かせゆく
どれほど苦しい
苦しさの夜にも


光の角が
片目からだけ伸びてゆき
もう片方は
見ることしかできず


   わたしには
   何もありませんでした
   たとえすぐそばに
   何かがあったとしても


   音と音の冠を
   受けては流す涙には
   何もない ただ
   何もないのでした


極北に至らぬ白夜から
月へ月へ柱は飛んで
まだら まだら 
死に近いよろこび
わずか二色の永いうつろい


夜の花のなか 街があり
岩や波に苦しめられ
そこに住まう小さなものには
目をつむるしか安らぎはなく


   どうしてもどうしてもふるえながら
   ただただ手をのばしたのでした
   すべての怒りの炎に
   焼かれてもいいと念じながら


   階段の上には
   失くしたものが山のようにあるのに
   今にも川に流されそうな
   ひとつの橋を見つめているのでした


雀の微笑みに囲まれ
巨きな巨きな しゃぼん玉に眠り
ついに虹のはじまりに至ったのに
見わたせば誰もいない


狼とともに吼え
影と影の森を孕み
失われた言葉たちと
赦されぬまま手を結ぶ


片目はどこまでも夜を昇り
もう片方はそれを見つめる
行方は涙で見えなくなり
小さな音が 小さな眉に降りそそぐ
































自由詩 夜わたる夜 Copyright 木立 悟 2012-08-19 23:04:16
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