夜よ ご機嫌麗しゅう
ただのみきや

夜よ ご機嫌麗しゅう
少し話していきません
ぬるい時間をちびりちびり
ロッキングチェアで揺られるような
取りとめのない浮世のことを

露出狂の政治家たちが
脂っこいことばを吐き出してはそれを
ズルズルと啜るようにまた食べてしまう
そんな悪趣味なニュースに見入っては
未来のあなたのドレスを想像してみる

月も星もないその日
喪服のあなたは地上を見下ろして
やっぱり変わらず微笑んで
歯型や爪痕のついた大きな墓地に
冷たく口づけするのでしょう

電車や地下鉄に積み込まれる人たちは
自分の眠りを置き忘れたり取り違えたりで
今朝方見た夢が本当に自分のものなのか
不安になって夜も眠れないらしい
それで悪循環が続くから 今では自分が
自分でないことにだけ確信が持てる始末
もともと自分などあったかどうか

ああ もうこれ以上かわいい人形たちに
自分のかわりに身投げをさせることはやめてくれ
真昼間の表通りに落ちて行く悲しい人形たち
皆が手垢を着けて弄り回した欲望の玩具
ビルのガラスに一瞬映る無表情ほど悲しい顔はない

噂は青い鳥 巡り巡って戻ってくるから
何羽もこさえて飛ばしてみた
人は限りなくゼロに近い存在で
光の加減で幸福と不幸に自分を色づける
消え去ってしまう そんな夕べに戻って来ては
奇妙な土産話を聞かせてくれるのだ

妄想空想余念がないこんなわたしの絵空事
大したつまみじゃないけれど
よかったらまた寄ってください
この天窓は壊れていて閉じることはありませんから
働き者の人工衛星たちによろしく
では ご機嫌よう


自由詩 夜よ ご機嫌麗しゅう Copyright ただのみきや 2012-08-19 23:00:57
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