遭難者の筆
ただのみきや


何かを失うということは
あまりにも日常的なこと
そしてそれが二度と戻らないことも

人が自ら行おうとする
生活に必須なこと以外の多くは
これらの穴埋めや消失感の緩和のため

それが比較的うまくいっていると
人に「落ち着いた生活をしている」と見られたり
自分でも「それほど酷い状態ではない」と思ったり

わたしが詩のようなものを書いているのも
ひとつの穴埋めなのかもしれない
あまりつり合いは取れていないようで

奇岩が立ち並ぶ荒涼を 風が哭き 巡っている
時折たった一人 何処でもない場所に倒れては
白ばむ過去を震えながら迎えたりもする

だけどもうこれ以上
外套を脱いだ日常の顔色を窺うことはしたくない
ここでこのまま 骨になっても







自由詩 遭難者の筆 Copyright ただのみきや 2012-08-14 00:33:26
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