休日リザーバーで釣りをする
北村 守通

結局のところ
友達と呼べるものが
充分には居なかった
念の為に
少なくとも
手に届く範囲ではと
慎重に限定してみれば
確実に居なかった

ぽっかりと空いた空白の
360度の一点にルアーを放り込むが
それは極めて限られた一点であって
私の知らないその先一メートルの触感があるはずだった
私は
日本を知らない
秋田県には行ったこともないし
福井県も知らない
沖縄県も知らない
住んでいた東京だって
東の方は全く知らないし
国分寺市だってその五分の一も知らないだろう
一方で
高知にしてみたって
市内の道もごく一部しか知らないし
そこから横に入ってみれば
どこに行き着くのかもわからないポイントに囲まれているのに
闇を照らしてみようとすることもなく
昨日という明日を繰り返している

私が投げたルアーは
かつて町であった場所の上を通過する
泥底に埋もれてしまった町並みを
私が投げたルアーは
高性能な人工衛星のように見下ろしているのだろうか

無人になって
時折ぶつかる水流や
思い出したときに天上へと向かう
あぶくのあわてふためく音以外には
荒らされることのない
このひっそりとした
下界の世界は
私にふさわしいものに思われたが
どうやらそれは
無人の町並みに
失礼なことだったようで
私はルアーを失い
駐車場に向かった
気分を落ち着けるために
煙草をくわえたが
むせこんでしまって
かつてのようには吸うことができなかった


自由詩 休日リザーバーで釣りをする Copyright 北村 守通 2012-08-11 00:47:26
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