フリーハンドのくろい線
石川敬大
 褪色したかこはモノクロ
 セピアのくすむ
 鉄錆の
 あかがね色
 ふくざつに入り組んだそら
 四角い工場群がある昭和のはじめは卵の
 ちいさな箱
 筒状のえんとつ
 にごった運河にかかる橋のうえを
 くろいシルエットがゆく
 じてんしゃ
 にぐるま
 しおかぜにせなか押されて
 だれもが
 じだいの入墨からのがれられない
 ひじり橋
 ニコライ堂
 Y市の橋
 なんどもくりかえされたスケッチの断片
 バラバラのものをキャンバスにかきあつめて
 むこう側とこちら側をつなごうとする橋のらんかん
 磁力のある風景
 と、いってみてもなにもわからない
 と、いってみてもなにもつたわらない
 フリーハンドのくろい線が
 じゆうに
  の
  び
   て
    ゆ
    く
 じだいのかぜにあらがうデフォルメされた自画像
 シュンスケ
 三十六年の歳月だった
 
