水路
綾野蒼希

固く強張った叫びの表面から
水が剥がれる
一枚の皮膚のように
音もなく
樹齢千年の眼差しに救われて

水は
季節の波紋を揺すり
懐かしい演奏を軸とする
流れと
陽光の到着を待ちながら
密やかな微笑を湛える

系譜を持たず
距離を置かず
やがて旅立ちの時は来た

水路は晴れて形成されたのだ

書斎に書き残した主眼
隣人に預けられた鍵
驟雨に溶け込んだ韻律

水は入り江の吐息に導かれ
蝶の影と戯れる
少しずつ澄み渡っていく

沈黙の境界を越え
来歴と別れを告げる


自由詩 水路 Copyright 綾野蒼希 2012-08-10 13:55:38
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