ビアガーデン
nonya


亜寒帯のオフィスを出て
果てしない温水プールを
東から西へ

亜寒帯の百貨店を目指し
思考停止のままの潜水で
東から西へ

最後の力を振り絞って
エレベーターのRボタンに
タッチすれば気泡のように
たちまち屋上に運ばれて

扉が開く

分厚いガラスが触れ合う音
あちらこちらで傾く琥珀の水
笑い声のドップラー効果
人影のような海藻の間を
忙しなく泳ぎ回る
熱帯魚模様のウエイトレス

そこは
シャングリラでも
ザナドゥでもないけれど
もしかしたらオアシスかもしれない
都会の夜に滲んだガーデン

誰もが
何かを発散し
何かを解放しにくるけれど
もしかしたら何かを抽出されるだけの
湿気の底に沈みかけたガーデン

それでも
唐揚げをほおばり
枝豆をついばみ
ソーセージをむさぼり
琥珀の水を何度も傾ければ
戯言の吹き出しは楽しげに
星も蕩けた夜空に立ち昇っていく

ゆうらりと見渡せば
灯りも疎らな高層ビルの背後で
熱気に茹だった三日月が
ささやかな人の泡立ちを
ぼんやり眺めていた




自由詩 ビアガーデン Copyright nonya 2012-08-01 20:53:38
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