悟り
HAL

ぼくは麻酔類の効かないからだのようだ
25歳の時に盲腸の手術でそれを知った

局部麻酔なのにいつまで経っても
まったく麻酔は効きはしなかった

オペの開始を待っていた医師は
業を煮やして頑健な看護師を招集した

集められたのは5人の厳つい女性看護師
彼等は柔道の心得があるかの様に

ぼくを羽交い締めにして医師に合図した
見事な程にぼくのからだは動けなかった

そのぼくの腹をまずメスで医師は切り裂いた
そのとき知ったのは良く切れる刃物は痛くないこと

でも手術室の空気はとても暖かかったので
ぼくの腹にその暖気が入ってくるのが分かった

眼の上にあるオペ・ライトに歪んではいたが
医師の行う手術のすべてが見えた

意外と腹の中は薄ピンク色で綺麗だった
ぼくは腹黒くないんだとつまらないことを考えた

そして40分位のち腹部が縫合されて
ぼくの手術は終わり羽交い締めも解かれた

そして色々なことがあり十数年が経ち
ぼくは睡眠薬も効かないのを知った

かかりつけとなった医師に相談したが
医師は最大限の量を出していると答えた

それで眠れないのはとても珍しいと
絶滅危惧種を見るようにぼくを見た

ぼくは諦め正確に11時30分に睡眠薬を飲み
30分後の薬が効き始める0時にベッドに入る

でもほぼ間違いなく2時から2時30分の間に
眠った感覚もなく眼が醒めてもう眠れない

そこから朝までがぼくが詩を編む時間になる
別に頭がぼんやりとしている訣ではない

でも朝陽が昇り始める頃からは一日中
ぼくは眠い眠いと想いながら仕事をする

洗濯だって掃除だって仕事の合間にする
それがいつもの変わらないぼくの平凡な一日

なぜ麻酔も睡眠薬も効かないかはもう忘れている
どうせ何かが変わる訣じゃないとささやかに悟る


自由詩 悟り Copyright HAL 2012-07-30 02:03:44
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