アスピリン・ソング
由比良 倖

君たちは分裂して数を増やす君たちは分裂して夢を数え上げてく、
何しろ満足しない方法を覚えたときから、
君たちは足を増やして切り落として、
切り落とした足を食べて生きているんだから、
そのために指の骨を折れば、金色みたいな心象的な、
神経症の雨が頭の後ろで降り続けるんだ、

ばらばら、
ばらばら、

窓を開けないことを学んだときから君の部屋中の壁は窓枠だらけだ、

まだまだ騙して手を翳して騙りつづけるの、
全ては失われていないのに、
あなたは浮き足だった空気の中でいつまでも病気のまま、
ただ私を騙し続けて、
ただ私を騙し続けて、平気で静かな、
沈静剤みたいな歌を歌い続けてて。

そうすればいつかあなたの死と生は、証明される、
科学的に、幾何学的に、
あなたの彼方で、

世界のすみっこで、
すべてのあなたの名称は、証明されるだろう、
科学的に、

あなたは朝早く起きて、
2000グラムの心を、200ミリグラムのアスピリンで引っ掻く、
と、

比較的うつろな眼をしたあなただって、夜が来れば人並みに
歳を取って指さした方向には世界は世界的に、

明るい軽い、あなたは何かしら思おうとして、
何かしら生きていて、一日の区切りには重力の微調整をしてるみたい、

顔なんかなくしてしまえよ、
顔なんかなくしてしまえよ、

あなたの言葉なんか、私の視界の中で、何だって、否定的に中和してやる、
あなたの言葉なんか、みんな一瞬で、ただしく抹殺してやる、

そうしてあなたに向けられた全ての言葉の中で、
あなたは分裂に分裂を重ねて、あなたにはあなたが、もう見えない。

そうだな、私はそうは思わない、
私はそうは思わないよ、

あなたはただそこで、ただ立ち尽くして経過に馴染んでいけばいい、
視線だけが、視線の内側から始まり続けててさ、私たちを取り巻く日常言語の中で、
いつも私たちは外部だ、それでもたまに僕たちの視線がかみ合うだろう?
世界のすみっこで、いま僕が産まれて、いま君が産まれて、
たまたま一秒見つめ合えたりしたなら、そうだな、奇跡だな、

そうしたら、その瞬間僕たちは生きていて、
すべての否定形の中で、感情なんかまったく抜きにして、僕たちは穏やかで、
この宙のどこかにある、中和なところで、ねえ、生きているよ、

そうしたら歌おうよ、詩を読もうよ、僕たちは生きていて、
臨床的な印象の象徴的な解釈とか、そういうの、
殺してしまって、心象と微笑だけが降ってきて、
第一のところ、光だけが実在なんだ、光だけ、
そう、もうただ光だけが実在だし、それ以外の物憂い解釈は、
来世紀にはもう死んじゃってればいいと思う、
いや、もうこの場で言葉を捨てろよ、
それから顔なんかはもう、なくしてしまえよ。

言葉がそれ自体実在だなんてこと、
僕はそうは思わない、
僕はそうは思わない、

ただ、光があってさ、君は一瞬、君にも与り知らぬところから、笑ったりするだろう?
そういうの、僕は、君が好きだな。

あなたはただ茫洋としてればいい。そうしてただ、僕たちは眼を瞑り、
そう、ただ生きていよう。ただ、ただただ、生きていよう。
ただ、ただただ、生きていて、生きていて、それだけ、
ただ生きていることの中に生きていよう。

君は、君たちは、顔なんか捨ててしまえよ、
君たちの言葉なんかは、僕が抹殺すると、決心するよ。
それだって、僕は言葉が好きだし、
僕は君たちの言葉が好きだし、僕は君たちが好きだよ。

それでも僕たちは、言葉の中で、どこからどこまでも嘘吐きなのだから、

黙れよ、
黙れ黙れ、
黙れ黙れ黙れ、

ただ、沈黙の中で語り合えたら、それだけのために生きて行けたなら、

……、分かって欲しいんだ、真実の在処なんて何処にも無い。
ただ黙って、感じていてよ、
感じていてよ、僕はただ、生きて存在することが、
まったくの孤独であることに、もう耐えられそうにないんだ。

僕は、生きていたい。
僕は、あなたが好きだ。
僕はただ生きていて、ただ生きているあなたが、
好きなんだ。

喋らないで。ただ、ただ今ここに居て欲しいのです。
ただ、ただ傍にいて欲しいのです。

ただ、僕が生きていて、ただ、あなたが生きていることを、
ただ、今この瞬間に、静かに、感じていたいのです。

僕の望みは、ただそれだけなのです。


自由詩 アスピリン・ソング Copyright 由比良 倖 2012-07-29 19:36:13
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