滲むということ 有るということ 無いということ
青土よし



 #滲む

 空っぽの鞄を持って歩いていると、友人は、どうしてそんな意味の無いことをするのかと笑った。私には鞄に入れるべきものなど無いので、なにも言い返せない。それなら手ぶらで歩けばいいのだが、周りの人はみんな大なり小なり鞄を持ち歩いている。その中で何も持っていない自分を想像してみると、たまらなく惨めな存在に思えるのだった。




 #有る

 心に眠る「ほんとう」を思うと、視界が暗転して、鳩尾の辺りをピストルで撃たれた様な衝撃を受けて、しかし血を流すことは無く、布状の身体が暗闇にぶわりと拡がって、やがて、掴んではこぼれる、ただの粒子だった頃へと回帰するのだ。




 #無い

 ぼやぼやと、ぼやぼやと、あたまの中が、だんだん、無、にちかづいていくのを、感じる……。
 この部屋で私は一人なのだ。それはどこに居るときでも言えることだ。どうして同じ形の指輪を嵌めているのだろう。あいつはいったい誰なのだろう、私の目の前で微笑んでいるあいつは?一年くらい前からそこに居る。よく見かける。あいつ、あいつは、違う顔をした自分だろうか。
 ここはどこで、どこに繋がっているのか。私は誰で、誰と繋がっているのか(原初的な問い)。あらゆる命題と論証は、われわれを死へと近付けさせるものでしか無い。誰かの生と関わるということは、少なからず誰かに死を与えているということだ。毎晩訪れる夢よりも無害な死を。


自由詩 滲むということ 有るということ 無いということ Copyright 青土よし 2012-07-22 13:23:51
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