サイレント
永乃ゆち

雨に濡れて

乾かない髪を

結い上げたままにして

服を脱ぎ散らかす



バスタブにうな垂れて

泣きじゃくった声は

シャワーの音に

かき消されて




何も残せず

何も成せず



雨に濡れて

乾かないハイヒールを

玄関に放り出したまま

ベッドになだれ込む



枕に顔をうずめて

泣き叫んだ声は

ボリュームを上げた

深夜の洋画にかき消されて



何も話さず

何も聞かず



24時を過ぎると

みな等しく魔法が解ける

鏡に映った私は

ただの

女だった



何も残せず

何も成せず

何も話さず

何も聞かず



あの人が最後に言った言葉も

雨の音に

かき消されて


二人の未来も

時間も

かき消されて


濡れた髪のまま

涙も拭わず

独りになった私は

どうしようもなく

ただの女だった


自由詩 サイレント Copyright 永乃ゆち 2012-07-22 08:48:17
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