手向け 会えなかった君へ
黒ヱ

一ノ妙


その命の長さ 七つの月


おぎゃおぎゃと 君はどんな声で泣いたかしら

「ねぇ 見て 手を握りかえしてくれるの」

ちぃさなちぃさなお手手 小指をすこしだけ掴むの

その蛍の光が消えるから

せめてと 咥えさせた乳頭(ちがしら)

力なく 吸う君に

私は一時 母になった


だるまさんが転んだ

鶴と亀も滑った

帰りは とてもとても 怖い


薄く濡れた君 ふわりと頬は鴇色に染まる

名もつけられずに 流れ去ってゆく

君の眼は 開かれなかった

その硝子玉に映されたであろう 幾億の景は

蛍と共に 消え去った


何も教えれなかったの

何も見せれなかったの

何も出来なかったの

何も 何も

君は不幸だわ 

私 私は君に会いたかった

変わり続けたであろう 君に

もう いいのよ

あなたは やわらかに

そのまま 眼を閉じて おやすみ


ささめく蛍の抜け殻

それは いとも簡単に その前とは違って

とても軽く つまらないものになってしまった


さようなら




自由詩 手向け 会えなかった君へ Copyright 黒ヱ 2012-07-21 14:17:41
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