「もう少しそのままで」
ベンジャミン

変わることよりも
変わらないでいることのほうが
難しいと知った頃

変わることと変わらないことは
まだ等しいままだった

やがてその違いに気づき
そして変わることが失うだけでなく
変わらないことも失うだけではないと
ようやく心が理解した頃

変わることと変わらないことは
それでもまだ等しかった


   ※


あれからどれだけの日々が流れて
そして変わることで得たものと失ったものと
変わらずに得たものと失ったものたちを

想像という張力で思い浮かべる

質量を持たないものばかりだから
何を尺度にはかればいいのかわからない

得ることがかならずしも善でなく
失うことがかならずしも悪ではない
そんなことにも気づいた頃

まだ何も知らなかったときの自分が
とても懐かしく思えた


   ※


無邪気に微笑んで
無心に何かを追いかけて
息がきれそうなくらいかけまわっていた

何が正しくて何が間違いで
失敗や成功をただそのままに受け止めて
泣いたり笑ったりしていた

ただそのままをただそのままに

ただそれだけのことで埋めつくされた
ただそれだけの日々がただそれだけでなく
どれだけ心を軽くしていたかなんて
まったく気づかないまま

そんな頃を思い返していた
そんな頃があったことが遥か遠くに思えて

もう少しそのまま
遥か遠くの自分を

もう少しそのまま
懐かしさの中で近くに感じていたかった
 


自由詩 「もう少しそのままで」 Copyright ベンジャミン 2012-07-21 02:57:14
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