「そして虚妄へと至る」
桐ヶ谷忍

宛先のない、差出人名だけ書いた
何一つ言葉の綴られていない手紙を
したためる毎日だった

訴えたいこと
懇願したいこと
助けてほしい、と
どれだけ書いても書ききれないくらいある
そんな毎日

カミサマを宿している人を羨んだところで
私の中には信仰の対象はない
信じるナニカもない
すがるものがないのだ

だから宛名を書けない
便箋も空白
それでも、
それでも。

けれど、いつも問いかけ続けていた
それは架空のカミサマであったかもしれないし
あなたや、両親や、友人や、ナニカだったかもしれない
実際には問わず、無言ではあったけれど

常に、問いかけていた
特定のナニカではなく
ただただ問い続けていた
ただただ訴え続けていた

なぜ
この手は何も掴んでいないのかと

なぜ
私はいつもひとりなのかと

さびしい、と

私の手はいつも冷たいのです
真夏でも冷たいのです
手の冷たい人は心のあたたかい人、なんて云うけれど
私の心はいつも寒い

寒すぎて凍えています
あたたかさを齎してくれる体熱を探しているけれど
けれど、
なのに。

そうして私は
問う
訴える
求める



宛先のない空行の手紙を
今日もまた、一枚。


自由詩 「そして虚妄へと至る」 Copyright 桐ヶ谷忍 2012-07-20 21:21:54
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