ホタル、きみはもう真っ裸じゃないか
草野大悟

 おれの才能はただひとつ
 きみをほんとうに好き、と
 死んじまってからでも言えること。

玄関の横の向日葵の鉢植えの横で
腹筋しながら光っているのはホタル。
奴が男でも女でもどうでもいいことだけれど
(ホタルは、男が光るんだけどな)
どっちだか分からないそいつは
無意味とも思える腹筋運動を続けている。
冒頭3行を、繰り返し、繰り返し、反芻しながら。

去年の忘年会で飲み過ぎちまって折ったノヨ
「ほんとうに好きアバラ」2本。

「ありもしないアバラ骨折ったなんて、
かっこつけてるんじゃないよ、ったく」
ばっさり、きみからは切り捨てられるしサァ
もう、最悪(男がヒカルんだけどな)

今日腹筋したら30回、腕立て20回、背筋20回
それで、いっぱいいっぱい。
どうしようもねぇナ。
どうしもねぇ、がそう言ったとたん

おれは腹筋してたのサ光りながらナ、なんてそいつは
鼻をひくつかせて呟いているんだろうな、きっと。

ホタル、きみはもう真っ裸じゃないか

どうしようもない が どうしようもない に
くどくどネチネチいちゃもんつける梅雨
もうひとりの どうしようもない は
冷蔵庫とクーラーを従えて
濁流の中へと飛んでゆく。

どうしようもないね どうしようもないが言う。
そう、どうしようもないね 
もうひとりの どうしようもないも言う。
どうしようもないは、どうしようもない以上に
どうしようもなくなって、
冷蔵庫の後なんかに隠れてみせたりするけれど
そんな仕掛けはだれだって見切っていて
「いやぁ、ばれちまいましたか」などと
ごたくを並べるヒマさえ与えられない。

夏だ!梅雨があけるよ!

濁流は、そう叫びながら、濁流である自分を誇り
そんなことねぇよ、とニヒルを気取って
青空に乗っかって
甲羅干ししているミドリガメを俯瞰している。

おそらく、たぶん、どこにも、そして、だれにも、
幸せなんていう幻は、降ってこない
、と濁流は渦巻きながら思い
あのころと同じように、濁流を流れている。

夏だ!梅雨も明けたよ!

つまるところ
どこまで飛んでいけるかが
この夏のおおいなる課題であって
個々人がどう生きてゆこうが
知ったこっちゃねぇ、ということなのよね。
枯れゆく青空は、かつて、
太陽という幻を高らかに謳い、掲げ、目指し
青に投げかけていたんだろう。
青空は、青に疲れ切って、おそらくは
       破
という一文字を選択して
空を捨てたんだろう。

 ウサギが餅をついている月は
 産まれたときからウサギにつかれて
 月になったことを十二分に後悔している。

ねぇ ホタル、きみはもう、真っ裸じゃないか

 


自由詩 ホタル、きみはもう真っ裸じゃないか Copyright 草野大悟 2012-07-18 20:12:43
notebook Home 戻る