光る影杖 
砂木

赤い雲が青空に溶けていく
さなぎの上に 初めて羽をひろげる鬼ヤンマ
透明な四枚の羽と 複眼に陽が射す
洗濯ものを 外に干す

水辺の近くに立つ 銀の洗濯棒が光を集める
風波をかぶる池の石 尾を揺らす魚
水面に 棒にこもった光が映り 
真直ぐの棒の影と共に 波立ち揺れる

光の影は 光 くねくねと風波の思うまま
削られても流されない石 波を避け潜る魚
杖のように立っている銀の洗濯棒
すべての影だけが 水面では波立ち
けれど ぶつかりあわず 虚を成し

揺らしてゆすって 風は水を羽のようにとばす
水は揺り返し 幾重にも風を起こす
石も魚も そこから溢れる空気を呼吸し
石には苔が生え 魚は 泳いで食べて泳いで

熱が水の中にも宿る 
育みは鳥を呼ぶ 猫を呼ぶ
地上を潤し 気候を動かし

汚れたものを洗って乾かした朝
銀の洗濯棒に集まった光は 水面で 光言葉になる
ただの黒い影に添う光は 見る事ができないけれど

羽が乾いた鬼ヤンマが いつのまにか飛んでいった
壁によじ登って残された抜け殻は
そのうち雨が降れば 落ちて流されるだろう
託された時の分だけ身につけた殻
脱ぎ捨てた塵は 二度とかぶる事はないけれど

風に交じる埃が 
光に舞う


 





自由詩 光る影杖  Copyright 砂木 2012-07-15 10:53:18
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