迷路
草野春心



  換気扇の下で
  きょう、最後の
  セブンスターを吸い終わる
  少しだけ散らばった灰と
  砂のような煙草の葉を
  指を唾で湿らせて
  僕は掬いとった



  何処か遠くの
  湿ったソファの隅っこで
  すやすや眠っているものを
  起こさないよう
  つまらない愚痴などで
  汚したりしないよう
  とても注意深く
  けれど
  何の甲斐もなく
  敬意を抱いてきた



  すっかり捩れてしまった
  ブラインドから差し込む
  夕暮れの光の薄いプレート
  それは黄色い埃を載せて
  緩やかに微風を滑ってゆく
  僕は、ただ一枚として
  掬いとれず



  此処は
  迷路
  生きもののように
  少しの間断もなく
  その姿を変えてゆく
  僕の生きる今はいつも
  入り口に過ぎないけれど





自由詩 迷路 Copyright 草野春心 2012-07-10 23:01:34
notebook Home 戻る