愛はあるから
田園

さようなら。
またね。

彼女はとても美しくそう言って去って行った。

まって。
おいてかないで。

僕はいつもそう思って笑った。
悲しくて仕方なかった。

だって知っていたから。
彼女の眼には僕は写っていないと。

ある朝小さい子供が一人、
公園のブランコでぽつねんとしていた。
母親はどうしたのか、僕はなぜか気になった。

だから僕は彼の所へ行った。

ぼく、だいじょうぶかい。

そう尋ねたら、少年とは思えないくらいの憎しみの目つきで睨まれた。
少年は何かに怒っていた。
見ず知らずの僕にその怒りをぶつけるくらい、
少年は確実に大きく怒っていた。

ぼく、

もう一度言いかけてやめた。

僕では駄目なんだ。
この子には僕ではない誰かが必要なんだ。
そう思って去ろうとした。

ら、
少年は僕のシャツをむんずと捕まえていた。

困り果てた僕は、しゃがんで、

どうしたんだい?

と尋ねた。


少年は語らなかった。
何にも、泣きもせず、相変わらず怒りに身を任せて。

突然、彼女の後姿を思い出した。
彼女には必要なかった僕。

その僕に何か、すがっているのか怒っているのかわからない少年一人。

僕が必要なんだろうか。
今まで、そんなことを思ったことのない僕は、
この子を守らねばと思った。
短絡的思考だ。
だが、僕はそう思ってしまった。

ぼく、警察へいこう。
お母さんに会いに行こう。

僕は小さな声で「おかあさんいやだ」と言った。
でもお母さんがいないとごはんが食べれないよ。
僕は返した。

おかあさんは、いっつも、ぼくを殴るんだ。ぼくがいい子にしてないから。
でもぼく、だれにも言えなくて、がまんしてたんだ。でも、

ぷつん、会話が切れた。

ぼくは悪い子じゃない!!

突然、少年は怒りながら、泣いた。
うああああああと泣いた。

そうか、頑張った。頑張った。
僕はどうしたらいいのかわからなかったけど、
その子を抱きしめた。

僕では助けられない。
でも今僕は君の味方だ。

親は犯罪を犯しているのだから、それを警察に言えばいいんじゃないかと思った。
里親制度もあるだろう。
でも、選択権はこの子にある。

だから強く抱きしめた。
愛はあるから、愛はあるから。
僕は自分に言ってるのか、少年に言っているのかわからなくなって、
少年と二人で泣きじゃくった。
泣きじゃくったんだ。



自由詩 愛はあるから Copyright 田園 2012-07-09 15:27:59
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