窓結い
Akari Chika

何十年も後
何十年も後の窓に
わたしの姿は映る
泣き腫らした目を 細い指で押さえて
赤い鼻の頭に 午後の光を落として
泣いた理由など忘れてしまった
それは何十年もむかしのはなし
太陽が窓を横切るように
わたしが悲しむ理由も移り変わっていく
葉が枯れるように
木の枝から舞い散るように
わたしの時間はゆっくりと
扉をギシリと軋ませて
見るもの 聞こえるもの押し込めて
招き入れた肖像を
手でやわらかく こねていく
わたしの時間は窓の外
渦巻く空へ立ち昇る
すこし苦しむ胸を撫で
もう大丈夫、とつぶやいた

何十年も後
あなたは両手を広げていた
風の住処に変わっていた
遠く 青い惑星の下で
あなたはわたしへ そよ吹かせる
窓はギシリと音立てて
便りが来るのを知らせていた

離れ離れの心さえ
結われて 伝う 絆があると
あなたが刻んでくれたこと

何十年も後
この窓を叩く風が
清く 爽やかに彩られ
何も言う言葉はなくても
あなたは優しいあたたかさ
わたしへ届けてくれるのでしょう

何十年もかけて
この涙は乾いていく
地面にそっと染み込んだ雨が
生きる理想を教えてくれる
わたしは窓の外
明るい雲に目をやって

もう大丈夫。とつぶやいた







自由詩 窓結い Copyright Akari Chika 2012-07-08 21:50:49
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