星を眺めること
ブルース瀬戸内

僕のおじいちゃんはまだ子どもの頃
僕のおばあちゃんと結婚するんだと
何度も言い張って聞きませんでした。


そんな身勝手なおじいちゃんだけど
おばあちゃんは決して嫌がらなくて
ぜひ結婚したいわねと言ったのです。


それから都会に出たおじいちゃんは
全然違う人とおつき合いをはじめて
その人と結婚するのではと噂が流れ
それを聞いたおばあちゃんは泣いて
でもおじいちゃんが幸せならいいと
タオルで涙を拭きながら思いました。


それからというものおばあちゃんは
星空を眺めることが多くなりました。
星空を眺めると、時間の概念が揺れ
ゆっくりと流れているように感じて
子どもの頃から時間が経ってないと
勘違いすることができるからでした。
おじいちゃんに結婚を申し込まれた
子どもの頃から時間が経ってないと
悲しい程簡単に勘違いできるのです。


でもしばらくするとおじいちゃんは
その人にあっさりとフラレたのです。
おじいちゃんがある晩の寝言の中で
おばあちゃんの名前を呼んだことが
喧嘩のきっかけとなって別れました。


それからというものおじいちゃんは
星空を眺めることが多くなりました。
星空は子どもの頃から変わらなくて
田舎に戻ったような気分になるので
いつもおばあちゃんのことを考えて
なんて勝手なことをしたんだろうと
申し訳なく思うものの何もできずに
涙を落とさないように星を見ました。


別れた話を耳にしたおばあちゃんは
複雑な表情を浮かべて星を見ました。
二人とも同じ星空を眺めていますが
二人ともそのことに気がつきません。
二人とも同じ流れ星に願いを託して
二人とも同じ星の瞬きに心震えても
二人ともそのことを知らないのです。
二人のもやもやがどんどん増幅して
大きな星雲ができそうなほどでした。


それでも流れ星が願いを叶えたのか
二人は引き合わされるように再会し
ほどなくして結婚して僕の父を育て
その父はおじいちゃん達の出会いを
僕に何度も聞かせてくれたのでした。


僕はこれから、そのおじいちゃんと
彼が愛しているおばあちゃんを連れ
星が見える望遠鏡を買いに行きます。


自由詩 星を眺めること Copyright ブルース瀬戸内 2012-06-27 02:13:59
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