雨とヨーグルト
Akari Chika

雨の音を聴きながら
ヨーグルトを食べる
雨脚とはうらはらに
部屋は静かで

ただ頭を撫でられていたかった
この手はいつも
あなたの為に空けてあった

からっぽの傘を握るために
わたしは泣いていた訳じゃない
この傘はいつも
あなたのために開きたかった

胸のところにある安心を
唇で吸い取るみたいに
足元をぬぐうタオルから
森の香りが漂うままに

ただ窓からの景色を
共有していたかった
雨が向こうのほうから
色が変わっていく様を
星が無数に瞬くのを
街が呑み込まれていく様を
ただ
ただ
あなたの鼻歌が好きだった

髪の表面に水滴がつくのを
それが滑り落ちるのを
瞬間
瞬間
追いかけた
首筋から
服に忍び込むのを
ただ
熱い胸に手を当てて
それでも気づかぬふりで

スプーンに映る照明が
なまぬるい空気を焦がしても
わたしは泣いていないから
ジャムのふたを閉めて

ひかりを
光らせるのは
わたしの目じゃなくて
あなたがふと呟いた
さみしそうな心のモノローグ

ただ触れ合う目先の
色に際限を見出せなくても
ひとつひとつ曇った色を
晴らしていけたら
あなたの手元にわたしがいられるように

ただ
ただ
涙が形を変えて
わたしの胸に響き渡るまで
雨の住処を探さないで。

そうだ もう少しこぼれたら
泳ぎ疲れた魚を癒すように
思い出に溺れる
仮面をはずして
ひかりが届かないこと
言い訳にしないで

この最後を口にしたら
あなたをただゆっくりと
忘れながら愛していく

ただ息を潜めて
もう二度と
呟かずにいられたら
その名前が
雨に消えてしまったら

ただ泣いてしまうのは

あなたがいつも
やさしかったから





自由詩 雨とヨーグルト Copyright Akari Chika 2012-06-19 23:41:23
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