蔵のカノン
月乃助


薄暗がりのはしで
懐かしさが、青白い銀河をささえている
女がふたり うずくまるように
時の欠片をひろっては、ひとつ ふたつ
蔵の闇の星空に ちいさくなげる

思い出たちは、ひととき
星雲の光をはなち
ほんのわずか そこにとどまり すぐに
消えていく

蔵のすみでは、ほこりをかぶったガラクタたちが
幽霊のように静かに出番をまっている

二人は、おなじ 紫の衣に
金糸の刺繍の襟

違いすぎる道をあゆんできたというのに、

(( 波のうねりが、あった。

  (( ほんとうに、たくさん。

(( 花の香る季節もやってきた。

  (( ええ、思い出すたびに、うれしくなるような。

(( 私たちは、ここまできたのですね。

  (( ええ、でも まだ、まだ、終わりはさきのことらしい、

笑うでもなく、泣くでもなく、ただ、語らう
石の壁は、ぼろぼろの
それでいて ぬくもりの和の石
ざらざらとした その肌で
女たちの 静か過ぎる声を聞いている

ひとりは、もう
今では膝をたて 砂漠に住まう」緑の目をした女のように
自由に
話に夢中になっている

陽にさそわれ、

重い鉄の扉をひらけば、
息を継ぐ間もなかった 昨日までの時の星雲たちが 蔵から流れだす

光があふれる。
しばらくの間
四角ばった陽の影でそれをみていた


遠くに
六月の
雨の気配が あるらしかった








自由詩 蔵のカノン Copyright 月乃助 2012-06-19 16:46:02
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