遠い昔のバーのスツールに腰掛けて
……とある蛙
ネオン輝く夜の街
路地裏の狭い石畳に
今宵も漂い辿り着く
淡いランプに浮かび上がる
[遠い昔のバー]の扉(ドア)
ここは[遠い昔のバー]の中
スツールに掛け、手をふいて
まずは一杯[今のリキュール]
軽く飲み干し、さらにお代わり
ほろ酔い加減でまたもう一杯
軽い気持ちで飲み干す酒は
遠い昔に仕込まれた
「どおりで喉越しがすんなりし過ぎている」
何十年もこの時を待ち
じっとその身を時に委ね
虜にする香を纏ってから
ようやく
樽から瓶へと衣替え
琥珀色の液体は
強烈な酒精分を含みながら
(そうとは気づかせない)芳醇な香りと甘みと
そして蠱惑的な色合いを持ち
一口含むタイミングさえ失わなければ
一気に喉を滑り落ち
そのまま胃の腑へ落下する
その後訪れる酔いと惑乱
今を破壊する仕組みだったとは
今の今まで気づかなんだ
心地よい酔いと惑乱の中
他愛のない話が次第に
BGMのように頭を巡る
そのまま帰るのには惜しくなり
後で思い出す訳も無く
寝穢く スツールに胡座をかいて
沈没する
宙空から伸びた
[毛むくじゃらの腕]に鷲掴みにされて
昇天する。