出入国
三原千尋

ゆるせないものが多すぎて困るんだ
面取りを忘れた大根の
尖った角にさえ傷つく
そんな自分の弱さやがさつ・・・さにさえ傷つくものだから
血はどんどん流れてきりがない

からだの中を飛び出した血潮は
ほろほろともろく
あるいはねばねばとしつこく固まって思い通りには行かない
自分から出てきたもののくせに

からだと外とをつなぐ空港では
不法入国者は許さんぞと
白い兵隊の群れがふくらんで出入口をふさぐ
清潔に四角く光っていた空港は
もはや痛くてかゆくてぱんぱんに腫れている

飛び出した血潮は外の世界を
青い空も
茶色い畳も
もはやほろほろと煮崩れている
清潔に四角く光っていた大根さえも
汚しつづけているというのに

兵隊のスクラムはほろほろともろく
あるいはこりこりとしつこく
赤い血潮のことなんか忘れていきり立つ
私も忘れ上手になりたいなと思いながらつと立って
血しぶきを拭き片栗粉を溶きはじめる


自由詩 出入国 Copyright 三原千尋 2012-06-04 17:36:48
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