べんとうばこ
藤代

巻かれた卵が
伸びた手にほどかれ
すぐに食べられてしまうので
ウサギになれないまま
林檎はずっと
木にぶら下がり
生き物であり続ける

窓のように
仕切られた部屋の
それぞれに
植物の
動物の
静かな
匂いがする
一羽も、いない
彼らに
水を
与えなければ

トースターが鳴り
朝食が始まると
弁当のことは忘れた
いただきますと
言うことも忘れた
テーブルの上になぜか
林檎がひとつ
ころがっていて
コーヒーと
混ざったような色で
木目に
身を隠そうとしていた

あの箱のフタを閉じる時
林檎を再び庭の木に結ぶ時
わたしたちはいつも
雨が降らないことを願っている
今日中にどこかで
開かれるであろう箱にはまだ
悲鳴のような
ウサギの匂いはしない


自由詩 べんとうばこ Copyright 藤代 2012-06-03 17:52:30
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