交錯する断片/記憶
桐原 真
耳の奥ですうすうと響く
自転の渦よりも果てしない
それは
薄紅を乱す煌めきたちであり、
乱反射とは相反する速さをはらんでいて、
きみは
まるで恋のようだね、と
指先も爪先も放り投げて微笑んだ
(最果てまで続くような曖昧さで、
赤い果実は色を深めてゆきます)
雨上がりの夕刻に
じゃらじゃらと、おはじきを持て余した幼い背中の
あまったるい記憶、
のような
人びとの影たち
大きすぎる靴と、
ワインレッドのペディキュア、は
昨日と何も変わらない
*
とある駅で
列車は三叉にわかれて流れてゆく
遠くまでやってきたら、
ほら
裸足で歩いてゆくよ
遠くというのは、つまり、
きみの鼻歌が届かないところ
ということだけれど
耳の奥ですうすうと響く
自転の渦よりも果てしない
うたかたの
ながいながい電線まで
息継ぎの仕方は、万華鏡に閉じこめて
誰ひとりとして
回し方を知らない、万華鏡に
*
真夏の世界で
焼けるような深呼吸をしてから
水に潜るんだよ、ね
(ゆるやかな曲線を描く線路では
青くちいさい花が
時々、ゆれています)
淡い色と見せかけた透明な水のなかでは、
きみの靴だけが
真青な空と一緒にみえるよ
永遠の行列を知らない、ジャストサイズの革靴が
*
耳の奥ですうすうと響く
自転の渦よりも果てしない
それは何故だか、
終わらない影踏みのように
ほがらかに
いつだってそこに在り続けている
生まれたての永遠のような姿で
大きすぎる靴を手に持って
幾重もの残像のなかで眠りに落ちる時
また、きみに出会う
影がないわたしたちは、
ただ笑いながら
各々の遠くに向かって歩いてゆく
大きすぎる靴と、
ワインレッドのペディキュア、は
昨日と何も変わらないけれど、
まっすぐに
ただ、まっすぐに
耳の奥ですうすうと響く
自転の渦よりも果てしない