交錯する断片/記憶
桐原 真


耳の奥ですうすうと響く
自転の渦よりも果てしない



それは
薄紅を乱す煌めきたちであり、
乱反射とは相反する速さをはらんでいて、
きみは
まるで恋のようだね、と
指先も爪先も放り投げて微笑んだ


(最果てまで続くような曖昧さで、
赤い果実は色を深めてゆきます)


雨上がりの夕刻に
じゃらじゃらと、おはじきを持て余した幼い背中の
あまったるい記憶、
のような
人びとの影たち


大きすぎる靴と、
ワインレッドのペディキュア、は
昨日と何も変わらない






とある駅で
列車は三叉にわかれて流れてゆく
遠くまでやってきたら、
ほら
裸足で歩いてゆくよ

遠くというのは、つまり、
きみの鼻歌が届かないところ
ということだけれど



耳の奥ですうすうと響く
自転の渦よりも果てしない




うたかたの
ながいながい電線まで
息継ぎの仕方は、万華鏡に閉じこめて

誰ひとりとして
回し方を知らない、万華鏡に







真夏の世界で
焼けるような深呼吸をしてから
水に潜るんだよ、ね


(ゆるやかな曲線を描く線路では
   青くちいさい花が
   時々、ゆれています)


淡い色と見せかけた透明な水のなかでは、
きみの靴だけが
真青な空と一緒にみえるよ
永遠の行列を知らない、ジャストサイズの革靴が







耳の奥ですうすうと響く
自転の渦よりも果てしない



それは何故だか、
終わらない影踏みのように
ほがらかに
いつだってそこに在り続けている

生まれたての永遠のような姿で
大きすぎる靴を手に持って




幾重もの残像のなかで眠りに落ちる時
また、きみに出会う

影がないわたしたちは、
ただ笑いながら
各々の遠くに向かって歩いてゆく


大きすぎる靴と、
ワインレッドのペディキュア、は
昨日と何も変わらないけれど、


まっすぐに

ただ、まっすぐに




耳の奥ですうすうと響く
自転の渦よりも果てしない



































自由詩 交錯する断片/記憶 Copyright 桐原 真 2012-05-27 02:31:05
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