カサブランカ
そらの珊瑚

六月の花嫁が
投げたブーケが
放物線を描いて
確かな意志を持って
わたしのほうへ
向かってくる

『ブーケをキャッチしたら
幸せになれる』というフレーズは
もちろん知っていたけれど
なぜか
わたしの中では
『ブーケをキャッチしたら
幸せにならなければならない』という風に
化学変化をおこしていた

思わず身を翻す
鼻先を掠めて
白い百合の花束は
石畳に落ちた

あのころ
愛してはいけない人を愛していた
そして
幸せになんかならなくていいと思っていた
幸せというものが
世間に祝福されて
なりたつものならば
要らないと思っていた

あのころ
愛と名づけた熱病に冒されていた

あの百合の名前が
カサブランカという名前ということを
知ったのは
それから数年たって
すっかり平熱に戻っていたころだった
胸に抱けば
芳醇な香りがするという
その香りに名前をつけるのなら
幸せ、がきっと似合うことだろう



自由詩 カサブランカ Copyright そらの珊瑚 2012-05-24 08:11:49
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