踊るひとのための連祷
塔野夏子

君は踊る
薔薇を 菫を 雛菊を踊る
揚羽蝶を踊る
木洩れ日を 気ままな風を踊る

君は踊る
虹を 青ざめた夜明けを 葡萄色の黄昏を踊る
波を 湧きあがる雲を 嵐を踊る

君は踊る
祭壇を 捧げられた炎を 祈りを踊る

君は踊る
砂漠を 氷河を 褶曲する鉱脈を踊る
遊星を 星座を とりどりに咲く星雲を踊る
日と月とのめぐりを踊る

君は踊る
張られた弓を 放たれた矢を 射られた的を踊る

君は踊る
街角を 広場を 露台を 高い塔を踊る
結ばれた手を 交わされた誓いを踊る
やわらかなまどろみを 深い眠りを踊る

君は踊る
恋の夢を踊る

君は踊る
記憶を 忘却を ふと舞い降りる予感を踊る

君は踊る
鋭い刃を 傷を 痛みを踊る
苦悩と絶望の深淵を 死の恐怖を踊る

君は踊る
沈黙の底を 静かで透明な目ざめを踊る

君は踊る
憧れを ただ憧れのためにだけ踊る





自由詩 踊るひとのための連祷 Copyright 塔野夏子 2012-05-23 20:38:07
notebook Home 戻る